甲子峠旧道


 “登山道のおにぎり”として全国に名を馳せていた甲子峠だが、2008年9月21日に甲子トンネルが開通した際に国道から降格し、おにぎりも撤去されてしまった。このページは2006年9月21日当時のものを特別編として公開するものである。メインのレポートとは逆のいわき市→新潟市向きとなっている。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・西郷村側)
1.旧道でもある奥甲子への分岐 2.通行う不能とは思えない道路状況だが…
 福島r290交差点から1.5km程走るとでかでかと「通行不能」と書かれた案内標識が目に入る。右折する道路には何の表記もなく「奥甲子」とだけ書かれているが、実は旧国道である。2車線快走路となる以前は阿武隈川沿いの狭路が国道だったのだ。甲子峠(大黒屋)に向かうのであれば直進である。
 旧道との交差点を過ぎても2車線の快走路が続いている。剣桂トンネルを始めとしていくつかのトンネルを橋を通過してさらに奥へ進む。その状況からはとてもではないがこの先が行止りであるとは思えない。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・西郷村側)
3.トンネルを抜けるとショボイ道に叩き込まれる 4.道幅は1.5車線の林道レベル 5..左が今走ってきた道で右が大黒屋への道
 安心院トンネルを抜けた先も道路自体は続いているが、工事現場なので進む事はできない。きっちりゲートが設置されており警備員もいた。ゲートの手まで左に分岐する貧弱な道に入らざるを得ない。バイパスの橋の下を通過して約300m進むと大黒屋に到着する。安心院トンネル西側から来た場合は鋭角に左折しなければならないが、大型トラックでもない限り一発で曲がり切れるだろう。少なくともデトマソであれば切替えなしで曲がる事ができた。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・西郷村側)
6.大黒屋へと足を踏み入れる 7.登山コースの案内図=国道の案内図!? 8.案内図拡大。甲子峠まで“道”はあります
 大黒屋から先は車での進入はできない。早朝のためひっそりとした雰囲気の大黒屋の駐車場の橋にデトマソを停めて徒歩での調査を開始する。大黒屋のある場所は甲子山の登山道の入口に当たるため、登山コースの案内板が設置されている。しかし残念ながらそこにR289は表記されていない。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・西郷村側)
 
9..国道は大黒屋の離れを抜ける 10.車が通れそうな幅の砂利道  
 大黒屋の本館らしき前を通り抜けて別館前に至る。秘境(と言う程困難な道のりではないが)の1軒宿と言われているだけあって中々趣のある建物だが、ここは温泉を紹介するサイトではないので詳細には触れない。国道にのみスポットを当てる、と言いたいところだがどう贔屓目に見ても国道の写真には見えない。しかし見るものが見れば国道だと分かる。

 渡り廊下を横切って奥に進むと緩やかな下りに砂利道となっている。道幅は1.5車線程度と言ったところで、渡り廊下に置かれたベンチがなければ車両でも進入も可能だろう。だからと言ってベンチを除けて入る訳にはいかない。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・西郷村側)
11.橋の手前におにぎり 12.橋の横には砂防ダム(?)から滝状に流れ落ちる水
 砂利道を歩いていると狭い橋の手前におにぎりが立っていた。登山道に立つおにぎりと言えなくもないが道幅が車で入ってこれそうな幅なので感動的なシーンにはならない。このおにぎりの場所、橋の手前までなら車での進入も可能だが転回スペースがないため後退して戻らなければならない。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・西郷村側)
13.見にくいが階段になっている 14.巨大な落石もここでは違和感なし 15.これが登山道国道の真骨頂!!!!!
 砂防ダム脇の橋を渡ると登山道らしくなる。もはや徒歩以外での進入は考えられない。幅もさることながら階段状になっていてタイヤが付いている乗り物が通行する事は一切考慮していない。まさに登山道である。人間同士がどうにかすれ違える幅だが、幸いにして対向はいなかった。青いプレハブ小屋の前を通り過ぎると視界におにぎりが飛び込んでくる。これが業界で最も有名だったおにぎりのひとつ、“登山道に立つおにぎり”である

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・西郷村側)
16.白いポールではなく木に付けられている 17.大黒屋を向いて撮影
 登山道のおにぎりは通常の白い支柱ではなく木に付けられていた。微妙に曲がっているところがその辺を木を適当に切って付けました間を醸し出している。実際にはどうなのか知らないが。さらに反対側にもおにぎりが付けられており、甲子山(峠)から来た登山者にも国道である事をアピールしている。この特異な風景ももはや見る事はできない。トンネル開通によって利便性が増すのは結構な事だが、それまでの古き良き風景が失われるのは寂寥感を感じずにはいられない。もっともその対象が国道おにぎりだと一般の人の共感は得られないかもしれない。


甲子トンネル開通前(2006年9月21日・下郷町側)
18.甲子峠に立つデトマソ 19.甲子林道は完全に封鎖され進入不能 20.甲子峠からの眺め
 甲子トンネル開通により下郷町側の甲子峠に至る区間も国道の指定を外れてしまった。未確認ではあるが、登山の基点として現在でも通行は可能かもしれない。このレポートは冒頭にも書いた通り、2006年当時のものなので現在も同じ状況とは言い切れないので、あくまで当時の様子を公開しているという事を前提でお読みください。

 バイパスとの分岐(当時は唯一の国道だったが)から約5km、20分程で甲子峠に到達できた。前述の通り登山道があるため周囲に人影はないが車が2台停まっていた、つまり登山客の車が停まっていた。線快走路から急に絞り込むように狭くなる。榎峠と同じパターンである。ガードレールなしの1.0〜1.5車線幅、鬱蒼と生い茂る木々から差し込む。
 甲子峠はご覧の通り、砂利。西郷村に通じる甲子林道は巨大な岩を並べて封鎖されている。バイクであれば脇をすり抜けられなくもないし、その痕跡も認められる。岩の奥に続く道路を見ると完全なダートでいかにも林道と言わんばかりの様子なので、封鎖されていなくても入るのを躊躇ってしまう。岩があって良かった。
 道路から目を離すろ素晴らしい景色を堪能できる。ツーリングマップルには「奥会津の眺めが特に素晴らしい」と書かれているが、まさにその通りである。戦々恐々としたここまでの5kmの道のりの苦労が報われるような感じだ。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・下郷町側)
21.峠を後にして下山する 22.峠付近は眺望のきく1.5車線の山道 23.現役(?)国道にダートが残る
 甲子峠の眺めを堪能した後は元来た道を戻らなければならない。通行止規制が掛かっていたせいか、路肩の草刈りは一切行われていない。乗用車同士の離合すらできない場所も多いが、そもそも対向者が来る可能性は非常に低いだろう。峠から約1km走るとアスファルトはなくなりダートとなる。行止り区間とは言え一応は現役(当時)の国道なのだが、ダートが残っているとは驚きを禁じ得ない。ダートのままヘアピンカーブをいくつか通り、その後は舗装路とダートが交互に繰り返される。勾配はさほどきつくない。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・下郷町側)
24.路上河川も用意されている 25.轍苔の生える実質1.0車線幅の国道 26.木漏れ日がチラついて視界は非常に悪い
 2ヶ所目のダートを過ぎてしばらく走っていると路上河川が現れた。水が流れる部分だけコンクリート舗装という本格的な(?)路上河川である。その後もダートと舗装路を繰り返しながら徐々に下って行く。中には舗装されていたもダート並に荒れている箇所もあるのだが、普通車でも問題なく通行できるレベルである。
 標高を落とすにつれて周りの風景にも変化が見られる。道路脇からの草の浸食は相変わらずだが、峠付近ではほとんど見られなかった木が生い茂っている。天気が良いため木漏れ日がチラついて視界が悪くなり非常に走りにくい。峠に向かう際に距離以上に時間を要したのはそのためである。そのうえ落木やら木の実(?)やらが散乱していて路面状況も悪い。1.5車線幅だが実質1.0車線幅しか使えない道路をゆっくりと進む。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・下郷町側)
 
27.落石。こんなもんが当たったら即仏は確実 28.生きてゲートに戻ることができた  
 路上に散乱する様々なものや道路脇から容赦なく襲いかかる草木と格闘しながら走っていると通行止ゲートに辿り着く。ほんの1時間ほど前にいた場所だが、それ以上の時間が経っているように思える。ゲートを越えてからもしばらくは木漏れ日のうっとおしい状態が続くが、道幅は多少広くなっている。

甲子トンネル開通前(2006年9月21日・下郷町側)
29.甲子トンネルの工事現場横を通り抜ける
 ゲートから約2kmで甲子トンネルの工事現場脇を通り抜ける。ちょうど昼休みの時間だったため、工事しているかどうか分からないような状況だった。工事現場を通過してからは2.0車線幅とこれまでに比べると広いが工事車両が通るため気を遣う必要がある。バイパスの工事現場はひっきりなしの大型ダンプの往来があった。